
神戸大学時代から指導し共に頑張ってきた松本隆作先生、蟹江慶太郎先生と書いた総説「Emerging applications of human iPSCs in pituitary diseases」がCommentとしてNature Reviews Endocrinologyにアクセプトになりました。
神戸大学時代から指導し共に頑張ってきた松本隆作先生、蟹江慶太郎先生と書いた総説「Emerging applications of human iPSCs in pituitary diseases」がCommentとしてNature Reviews Endocrinologyにアクセプトになりました。
iPS細胞の実験は維持からして手間とコストがかかるものですが、この方法でしかできないことがたくさんあります。山中伸弥先生のiPS細胞の発見と須賀秀隆先生のES/iPS細胞から下垂体への分化の技術を見て、これは下垂体疾患の病態解明に有用だと確信し、私たちは早期からヒトiPS細胞の下垂体疾患への応用を試みてきました。
まず最初に遺伝性下垂体疾患モデルに挑戦しました。そして約5年がかりでまず世界で初めての下垂体疾患モデルの樹立に成功し、松本先生がJ Clini Invest(2021)に報告しました。

松本先生はまず須賀先生のところで住み込みで下垂体分化について習いに行くところから始めました。そして当時原因不明だった先天性下垂体前葉、後葉機能低下症の患者さんからiPS細胞を樹立してその原因と共に機序を明らかにするチャレンジングなプロジェクトでしたが果敢に挑戦し、見事に原因がOTX2変異であること、そしてその機序として視床下部のOTX2によって制御されているFGF10が鍵であることを示しました。松本先生の工夫と粘り強い努力の成果です。
松本先生はそのプロセスで機械学習を用いたiPS細胞からの下垂体分化予測モデルの作成にも成功しCell Rep Methodsに報告しています。

さらに現在は、京大iPS研究所に移って活躍しており、当時同時に始めたLHX4変異iPS細胞の解析も進めてもうすぐ論文投稿のところまで来ているだけではなく、iPS細胞を用いた画期的なクッシング病モデルにも取り組んでいます。
また同じ頃、私たちが発見、樹立した「抗PIT-1下垂体炎」という新たな病気の疾患iPS細胞を用いたモデルができるのではないかというアイデアが閃きました。
このプロジェクトは当時大学院生だった蟹江慶太郎先生が挑戦しました。抗PIT-1下垂体炎はT細胞による自己免疫疾患ですが、そもそもこれまで良いT細胞の疾患モデルがありません。その理由はT細胞による細胞傷害が宿主のHLAに拘束されるからです。そこで私たちは患者さんの末梢血からiPS細胞を作り下垂体にすることによって同じHLAを再現しました。さらにこれも大変苦労しましたが患者さんの末梢血から細胞障害性T細胞のクローニングを行い、両者の共培養系で病態が再現できることを7年がかりでNature Commun(2025)に報告しました。これは下垂体疾患モデルとしてだけではなく、T細胞性自己免疫疾患の初のiPS細胞モデルとなりました。これも蟹江先生の弛まない努力の賜物ですが、特にリバイスでもう1例作れと言われても心が折れずに1年間かけて対応して見事にアクセプトを勝ち取りました。本研究は京大iPS細胞研究所の金子新教授、伊藤剛先生の全面的なご協力なしではできませんでした。

蟹江先生も現在京大iPS研究所に移ってスタッフとして活躍しており、これまでの経験を活かしてiPS細胞のがん治療への応用に取り組んでいます。
今回のNature Reviews Endocrinologyの論文はこれらの下垂体疾患モデルへのヒトiPS細胞の応用の意義と可能性についてわかりやすく論じました。また出版されたら詳細をお伝えできればと思います。このように下垂体疾患モデルへのiPS細胞への応用は私たちが世界をリードしています。
現在奈良医大では、多くのモチベーションの高いメンバーたちとビッグデータ解析を通じて世界に挑戦しています。現在日本人悉皆の1億2000万人の解析から興味深い結果が得られ、今年はいくつかが論文になると思います。
私自身は、今後もこのような若い先生を育成して、彼らが新たな挑戦によって医学を切り拓いてもらうことを期待しています。


